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シンポジウム「細胞治療薬開発研究におけるin vivo 実験モデルの果たす役割」で講演いただいた先生方のスライドと音声の録画です。(2024年9月18日福岡)
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特別講演2 : iPS細胞技術を用いた免疫細胞治療の開発
金子 新 先生
京都大学iPS細胞研究所 免疫再生治療分野
筑波大学トランスボーダー医学研究センター がん免疫治療学分野
2006年にマウス、2007年にヒトでの樹立が報告されたiPS細胞は、再生医学研究および再生医療開発の重要なツールとして広く活用されている。 我々はiPS細胞を用いた抗原特異的T細胞受容体(TCR)発現T細胞の再生を2013年に報告したのを皮切りに、iPS細胞由来のCD8T細胞、NK細胞を含む自然リンパ球、CD4制御性T細胞などを用いた新しい治療法の開発を続けている。
細胞治療製剤の開発において、生体内におけるその製剤の安全性と有効性をできる限り予見することは不可欠であり、その要請に応えるin vivo実験モデルは極めて重要である。これまでに我々の研究室では各種の免疫不全マウスを用いて、上述したiPS細胞由来免疫細胞の安全性や有用性を評価する機会を得た。本講演では、現在、卵巣腫瘍を対象とした臨床試験を実施中のキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入iPS細胞由来自然リンパ球(NK細胞)の非臨床安全性試験(Ueda T et al., Cancer Science 2020)、免疫原性を減じたiPS細胞由来CD8T細胞のin vivo生存と機能評価研究(Wang et al., Nature Biomedical Engineering 2021)、固形がん等を対象としたiPS細胞由来CD8T細胞や自然リンパ球のin vivo機能強化研究、iPS細胞由来CD4制御性T細胞のin vivo機能評価研究などの実験例を中心に、in vivo実験モデルの有用性について議論したい。
講演1 : iPS細胞由来免疫細胞の機能評価における免疫不全マウスの役割と課題
入口 翔一
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)免疫再生治療分野
体外での増幅培養を経て調整される抗原特異的T細胞や、キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を導入して作製されたCAR-T細胞を患者へと輸注する養子免疫療法は、血液腫瘍の領域等において臨床でも実績をあげている。一方で、体外増幅操作による抗腫瘍機能低下やドナー細胞の安定確保など克服すべき課題も明らかとなってきた。我々のグループはこの課題解決に取り組むべく、iPS細胞から機能的なT細胞を大量に作製する技術開発を進めてきた。作製したiPS由来T細胞の機能を評価すると、in vitroでは健常人ドナー由来T細胞に類似した機能を呈することが分かった一方で、免疫不全マウスを使ったin vivoの評価系においてiPS細胞由来T細胞はサイトカイン遺伝子導入がないとマウス体内で長期残存しないことが分かった。これはiPS細胞由来免疫細胞の前臨床開発において、免疫不全マウスを用いた機能評価が有用であることを示す好例である。本シンポジウムではiPS細胞からT細胞を作製する技術開発の進捗と免疫不全マウスが果たしてきた役割と課題について紹介したい。
講演2 : Combination of T cell-redirecting bispecific antibody ERY974 and chemotherapy reciprocally enhances efficacy against non-inflamed tumor ~ヒト化NOGマウスを用いた非臨床研究例~
佐野 祐治
中外製薬株式会社創薬薬理第一研究部
腫瘍免疫療法において、cold tumorに対する強力な治療法の開発が重要な課題である。ERY974は、GPC3とCD3を認識する humanized IgG4 bispecific抗体である。我々はcold tumorに対するERY974と化学療法剤(パクリタキセル、シスプラチン、カペシタビン)の併用効果をヒト化NOGマウスモデルで検討した。ヒト化NOGマウスはヒト臍帯血をマウスに移入し、主にヒトT/B細胞をマウス体内で再構築したモデルであり、特に腫瘍免疫の研究分野で頻繁に活用されている。
ERY974単剤療法では、NCI-H446 cold tumorに対する抗腫瘍効果は軽微であった。これは、一部にはERY974によって誘導されたT細胞の浸潤が腫瘍間質境界に限局されているためである。しかし、化学療法剤との併用療法では、T細胞の腫瘍中心部への浸潤が促進され、さらにERY974自身の腫瘍中心部への分布が増加することで、有効性が向上した。また、ERY974はカペシタビンによる細胞障害活性を増強した。これは一部にはERY974によって誘導されるIFNγおよびTNFαによって、MKN45 cold tumorでチミジンリン酸化酵素の発現が誘導され、カペシタビンの活性化体への変換が促進されたためである。
以上のように、ヒト化NOGマウスを用いた非臨床研究によりERY974と化学療法剤が相乗的かつ相互的に抗腫瘍効果を増強し、cold tumorに対する有望な治療戦略となる可能性が示された。
講演3:重度免疫不全マウスを用いた細胞治療薬の開発
高橋 武司
公益財団法人 実中研 実験動物基礎研究部
重度免疫不全NOGマウスでは生きたヒト免疫細胞とヒト腫瘍細胞が共存できるため抗がん治療法の開発のためのユニークな実験系である。免疫細胞の細胞傷害活性を利用したがん治療は多様化しており、それらの治療戦略に応じたマウスの開発が求められている。実中研ではヒトIL-15を発現するトランスジェニックNOGマウス(NOG-IL-15Tg) を2017年に開発し、ヒトNK細胞が長期にマウス生体内に維持されるとともに抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)によりヒトがん細胞の成長を抑制できることを示した。さらにマウスFcg受容体を欠損させたマウス(NOG-FcgR KO)を作製することによりマウスマクロファージによるマウス内因性のADCCを低減させ、NOG-IL-15Tgマウスと組み合わせることによりヒトNK細胞によるADCCを特異的に検出可能なマウスモデルを開発した。これらのモデルでは新規抗体治療薬の開発、あるいはキメラ受容体(CAR)を発現する改変ヒトNK細胞(CAR-NK)の抗腫瘍活性が検証可能であると考えられる。またNOG-FcgR KOマウスではヒト造血幹細胞を移植したモデルにおいて分子機構は不明ながら抗PD-1抗体投与によりヒトがん細胞を拒絶するケースが認められ、ヒトT細胞の腫瘍内への強い浸潤を伴うことからT細胞免疫による抗がん治療法の開発に応用可能であると考えられる。本発表ではこれらのマウスの紹介と共に実中研で開発しているモデルの特徴について概略を述べる。